契約恋愛~思い出に溺れて~
「……どうして」
「なんとなく」
お盆を握り締めて、グッと涙を堪えた。
だって、優しさが嬉しくて泣けるなんて、何だか子供みたいじゃない。
私が押し黙っていると、彼がぽそりと声を出す。
「大丈夫だよ?」
彼のその言葉に、堪えていた涙がこぼれた。
その場にいた全員が一瞬息を飲み、目を丸くする。
「ご、ごめんなさい。なんかちょっと……」
急いで腕で涙をぬぐって、お盆を置いて二階の自分たちの部屋まで駆け上がった。
息を切らしながら扉を閉める。
一体何やってるんだろう。
なんか英治くんがいると、気持ちのコントロールが出来ないみたい。
思った事が口をついて出てきてしまう。
座り込んだまま、何気なく部屋の中を見渡した。
ユウの遺影が入っている仏壇は、扉を閉めた日以来開いていない。
私はそれを見て、急に力が抜けた。