契約恋愛~思い出に溺れて~


母は少し涙目で、呟くように言う。


「母さんもごめん。ずっと……ごめんね」


それを見ていた父は、どこか満足そうに頷いていた。


一瞬静かになる室内に、紗優の元気な声が響いた。


「ケーキおいしそう。サユ、たべたい」


その声に救われて、室内には再び和やかな空気が流れる。


「コーヒー冷めちゃったよね。また入れてくる」


そう言って立ちあがって部屋を出ようとした時。


「紗彩をよろしくお願いします」


父の声が聞こえた。

振り返った瞬間、頷く英治くんが見えて、嬉しくて堪らなくなった。


< 325 / 544 >

この作品をシェア

pagetop