契約恋愛~思い出に溺れて~
カウンターに顔をつけたまま、私は泣きだしたいのを堪えて演奏に聞き入っていた。
ふと、二つ離れた席にいる、二人組の男性客の話が耳に入ってくる。
一人はダークブラウンの髪の快活そうな男の人、
もう一人は反対側を向いていて顔が見えないけど、黒髪の肩幅のある男の人だ。
「……お前もバカだよな。取り返しがつかなくなってようやく認めた訳だ」
「うるせぇ」
「いつまでも兄貴面して満足してっからだよ」
「だって、仕方ないだろう。実際そうなんだから」
「だからってさ、自分から男を勧めることないだろ?」
「アヤには、こういう男。
そう頭の中で思ってたそのものの男が現れて、あの男は駄目だなんて、言えないだろう?」
『アヤ』だって。
私の名前みたい。
『サヤ』って呼んで欲しい。
ユウの声で、ユウの口から。
だけど、ユウの声って、どんな音色だったかしら。