契約恋愛~思い出に溺れて~
「いい匂いしてきたねー」
皿を取りにきた英治くんがそう言いながら背後に立つ。
「え?」
「うまそう」
「あ、あつっ」
振り向けばぶつかるくらいの近距離に立たれて、ドギマギしているうちに鍋のふちを触ってしまった。
「こっち」
英治くんに手を掴まれて、水道の蛇口から流れる水につけられる。
熱による痛みが、冷水による冷たさの痛みに変わってくる頃、ようやく気持ちも落ち着いてきた。
「ごめん。びっくりした? 大丈夫?」
「だ、大丈夫。ちょっと触っただけだから大丈夫よ」
「ママ、どうしたの?」
隣室から紗優までが心配そうな声を出している。