契約恋愛~思い出に溺れて~
食事が進み、お鍋の中が空っぽになる。
英治くんと紗優が、肩を並べてクイズ番組に見入っている間、私は片付けを始めた。
もうすぐ終わると思った頃、トイレにたった英治くんが傍にやってきた。
「紗彩ちゃん。ありがとう。全部任せちゃってごめん」
「いいのよ。紗優の事見ててくれてありがとう」
「いえいえ」
彼がにこにこと笑うから。
私は今の気持ちを伝えたくて、彼の服の裾を掴んだ。
「あの、あのね」
「……え? あ」
その時、英治くんの携帯電話が高らかに鳴った。
「誰だろ?」
ポケットから携帯を取り出し、その発信者を確認した彼は、
「達雄だ」
と呟いて電話に出た。
「え? ああ。それで?」
電話に問いかける彼の声は、やや焦ったような声色だ。
ずっと聞いているのは悪いかと思い、私は片付けを終わらせて紗優の元へ戻った。