契約恋愛~思い出に溺れて~
車が動き出すと、案の定紗優は数分もしないうちに眠ってしまった。
私は紗優を抱きかかえるようにして、運転席にいる英治くんを見やる。
「さっき歯ブラシ一つ使ったから」
「え?」
「紗優。寝ちゃいそうだったから。アメニティのやつ」
「ああ。出張の時に持ってくるんだ。ついつい溜まってて」
それにしたって、あんなところに置くかしら。
疑似恋愛をしていたという英治くんの過去が垣間見えるようで何だか悔しくなる。
「……変なヤキモチ妬いてない?」
「変なって。……別にヤキモチなんて変な事じゃないじゃない!」
「聞けって。過去の事を言われたら、確かに信じてもらえるかは分からないけど。
少なくともここ1年くらいはこの部屋に女の子を連れ込んではないよ」
「ホント?」
「紗彩ちゃんが信じてくれればね」