契約恋愛~思い出に溺れて~


多分サトルくんにとっては、
別れはまだ実感のないものなんだろう。

年頃で考えれば、一生ものの別れなんてまだ体験する年じゃない。

だけど、離れてしまったらもう二度と会えない事もあるって事を、紗優は多分肌で感じてる。

だからこそ、あれだけがむしゃらに走って、
あてがない約束にも、あれだけ安心したんだ。

父親の死が、紗優をこんな風にしたのだというのなら。

ユウはこんなところにも存在しているってことだ。

例え、居なくなっても。

ううん。居なくなった事さえも、私や紗優を形作る一部分となってそこにいる。


「また会えるよ。大丈夫」


私がそう言ってやると、紗優は涙目のまま私に抱きついてくる。


「ほら、謝恩会にいかないと」

「そうね。サユちゃん、また会えるから大丈夫よ」

「サユちゃん。やくそくね」


差し出された手と握手をして、ようやく紗優は笑顔を見せた。


「またね」


走って行く車を見送って、また保育園の方へと戻る。

手を繋いで歩く、この小さな娘が誇らしい。

大切な事を見失わないように、必死で生きるこの子が誇らしい。

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