契約恋愛~思い出に溺れて~

どうしよう。
言いたい言葉が、うまく声にならない。

自然に沈黙になってしまって、時折り、煙草を吐きだしているのか風の吹くような音がする。


「あの、英治くん」

『ん?』

「会いたいの。……行ってもいい?」

『今から?』


驚いたような彼の声に、一瞬ためらいが生まれるけど、それでも勇気を振り絞って続けた。


「うん。今から、行っていい?」

『いいよ。迎えに行こうか』

「ううん。タクシーで行く。住所だけ教えて」

『でも』

「待ってて。……自分から行きたいの」


自分から、飛び込んでいきたい。
いつも近くまで来てくれるのを待ってるんじゃなくて。

好きって、英治くんを感じたいって。

ちゃんと自分から言いたい。


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