契約恋愛~思い出に溺れて~
英治くんの目が細められて、焦点がどこか遠くに合う。
こんなに近くにいるのに、遠くに行ってしまうようで、慌てて彼の腕にしがみついた。
「どうしたの?」
「あ、あの。や。……何でもないんだけど」
彼はにこりと笑うと、腕を私の背中にまわして引き寄せる。
私の頭が彼の肩に乗っかる形になり、体温が直に伝わってくる。
「俺も変わんなきゃなぁって、ちょっと思ってて」
「え?」
「前、話した事覚えてる?」
「いつの話?」
「俺の母親の話」
私はゆっくり頷いた。
育児ノイローゼで、他の男の人と出て行ってしまった彼の母親。
捨てられたという意識が消えなくて、自分は欠陥品だと言った彼。