契約恋愛~思い出に溺れて~
「英治の、子供?」
そう言って、視線を紗優の方にずらす。
「えと、よこやまさゆです。こんにちは」
「あ、……ごめんなさいね。
私は高屋 静音(たかや しずね)っていうの。ええと、サユちゃん?」
「うん」
彼女はつられたように挨拶する。
私も慌てて頭を下げた。
「よ、横山紗彩です。紗優の母親です。あの、英治くんとは……」
「彼女は俺が今付き合ってる人。そして、紗優ちゃんはその娘さん。俺の子供な訳ではない」
私の言葉を遮るように、英治くんが言う。
いつもよりも低い声に、紗優が驚いて顔をあげたから、私は両手を紗優の肩に添えた。
「英治……」
「久しぶり……って言えばいいのかな」
英治くんは改札からずれるように歩きだした。
無言のまま、私たちも引きずられるように歩く。
お母さんは戸惑っているように、ノートを持つ指を何度もこすりつけていた。