契約恋愛~思い出に溺れて~

英治さんは席を達雄さんの隣に移り、右腕で彼の肘を小突いた。
それを受けて、達雄さんが私に話しかける。


「どうしたんだよ」

「ごめん、なさい。急に」


私は小さく首を振る。
涙は抑えようとしても中々止まってくれない。

あの人の記憶が溢れ出してきて、抑えられない。


「ユウ……」


すがるように吐き出した夫の名前は、静かに消えていく。


どんなに呼んでも、

どんなに望んでも、

もう彼は私にキスを落とさない。


それでも。

忘れられない、忘れたくない、愛しい人。

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