契約恋愛~思い出に溺れて~
そして、駅構内の片隅にまで移動した。
少し離れたところの土産物屋の呼び声が聞こえる。
移動する人は何人もいるけど、立ち止まっているのは私たちだけだ。
「あの、あのね、英治」
「俺さぁ」
英治くんが背中を見せたまま、口を開く。
「会って、何を言えばいいか分からなかった。
今更、恨み事を言ったって仕方ないし、俺は実際、母親は居ないんだって思って過ごしてきた。
だから、最初に手紙をもらった時に感じたのは怒りだ。
今更、かき乱されるのはごめんだったし。
今の家族が大事なら、それだけを見て生きればいいとも思ってた。
気まぐれで連絡を取られるなんて迷惑だって」
「英治、ごめ……」
「だけど、彼女と知り合ってから考えが変わった。親だって人間だ。完璧になんてできない。それでも必死なんだって」
英治くんが振りかえって私を見る。
泣き出しそうなその瞳が、愛おしくて胸が痛い。