契約恋愛~思い出に溺れて~


「紗彩は必死だった。夫と死別して紗優ちゃんを育てるのに、がむしゃらに頑張ってた。……だから、俺もようやく思えたんだ」

「英治」

「母さんにも、事情があったって。好きで捨てた訳じゃないんだって」

「英治、ごめんなさい」


お母さんの瞳から、涙がこぼれおちる。


「謝りたくて。
あの頃、何もかもが嫌になって、あなたたちを置いて出て……。
だけど、新しく家族が出来た時、思い出すのは英治の事ばかりだった。

小さな子供を見るたびに、英治は今何歳だ。今頃何をしてるかって。

そんな資格が無いのは分かってる。
だけど。どうしても謝りたかった……」


「母さん」

「ごめんなさい」


泣き崩れたお母さんを、英治くんは抱きしめはしなかった。
ただ、向かい合うような形でその姿を眺めている。


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