契約恋愛~思い出に溺れて~
「……俺、自分が家族を持ちたいと思えなかった。
ずっと、あんなに先の事ばかり考えて生きてきたのに、結婚という形だけは見えてこなかった」
「……」
「それは俺自身が、家族の正しい形を知らないからなんだと思ってた。
だから今の今まで独身を通してきた。
一緒に暮らしたいって思えたのは、彼女と紗優ちゃんが初めてなんだ。
俺はこれから、二人と一緒に色々やりなおしていこうと思ってる。
母さんの事を、正直怒ってるとも恨んでるとも言えない。
許せるかと言われたらそれも分からない。
ただ、家族になりたいと思える人は出来た。
それだけは伝えたいと思って来たんだ」
「うん。分かった。ありがとう」
そう言って、ハンカチで涙を押さえながら、お母さんは私の方を向いた。
「……ありがとう」
「いえ、私なんて、英治くんに助けてもらってばかりで」
「ううん。ありがとう」
お母さんは、何度も何度も頭を下げる。