契約恋愛~思い出に溺れて~
私は彼の代わりに、お母さんの手をとった。
「私は彼に会えて、すごく救われたんです。それはお母さんが、英治くんを生んでくれたからで。……ありがとうございます」
「……あ、ありがとう」
お母さんは、泣きながら私に抱きついてきた。
挟まれる形になった紗優が、抜け出して英治くんに抱きつく。
私は泣き崩れるお母さんの背中をゆっくりさすった。
私は、理解できる。
お母さんのした事を、許せはしないけど理解はできる。
英治くんはどこか困ったような顔で、紗優を抱き上げていた。
しばらくの時間が経って、お母さんは鼻をすすってハンカチで涙を拭き取った。
そして、英治くんにそっと手を伸ばした。
「……母さんって、呼んでくれてありがとう」
「いや。……それしか言えなくてごめん。いつかまたちゃんと、言いに来る」
「何言ってるの」
「いつか、ありがとうとか、俺も言えるようになりたい」
「その言葉だけで十分……」
差し出された手を、英治くんはギュッと握りしめた。
きっとこれが、今の彼の精一杯なのだろう。