契約恋愛~思い出に溺れて~

やがて、達雄さんがカウンターにうずくまり、右手を伸ばす。

私の手に触れ、先ほど口づけた薬指をなぞる。
何故か抵抗できないまま、私はそれをじっと見ていた。


「俺も、一緒だな。寂しい」

「……どうして?」

「俺の好きな子は、絶対に俺に恋はしない」

「え?」

「一生片想いなんだ」

「そう」


一生両想いでも、もう二度と彼に触れてはもらえない私と、どっちが可哀想だろう。
そんな事、比べるものでもないのだろうけど。


しばらくの沈黙の後、彼は私の手をぎゅっと握った。

体の奥が疼くような気がした。
この手がユウの手だったらどんなにいいだろう。


「……割り切れる?」


その言葉の意味が分からないほど、私はもう子供じゃなかった。

小さく頷いた時、胸がチクリと痛んだ。

だけど、私の狡さを見透かしていたのだとしても、彼ならば許してくれるのかもしれないとも思ってしまった。


< 43 / 544 >

この作品をシェア

pagetop