契約恋愛~思い出に溺れて~
やがて、達雄さんがカウンターにうずくまり、右手を伸ばす。
私の手に触れ、先ほど口づけた薬指をなぞる。
何故か抵抗できないまま、私はそれをじっと見ていた。
「俺も、一緒だな。寂しい」
「……どうして?」
「俺の好きな子は、絶対に俺に恋はしない」
「え?」
「一生片想いなんだ」
「そう」
一生両想いでも、もう二度と彼に触れてはもらえない私と、どっちが可哀想だろう。
そんな事、比べるものでもないのだろうけど。
しばらくの沈黙の後、彼は私の手をぎゅっと握った。
体の奥が疼くような気がした。
この手がユウの手だったらどんなにいいだろう。
「……割り切れる?」
その言葉の意味が分からないほど、私はもう子供じゃなかった。
小さく頷いた時、胸がチクリと痛んだ。
だけど、私の狡さを見透かしていたのだとしても、彼ならば許してくれるのかもしれないとも思ってしまった。