契約恋愛~思い出に溺れて~
「彼女が電話で話した人。横山紗彩さん。
娘さんの紗優ちゃんは今日来てないけど、今1年生」
「英治は独身主義なのかと思ってたよ」
「俺も。でも紗彩とは結婚したいから。とりあえず報告はしておこうと思って」
「ああ、ありがとう。おめでとう。紗彩さん、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。ふつつか者ですが」
私が慌てて頭を下げると、英治くんがムキになって言う。
「ふつつかじゃないよ」
「じゃなくてもこういうときはそう言うのよ」
「型どおりの言葉を言わなくたっていいだろう」
目の前で口喧嘩を始める私たちを、お父さんはクスクス笑いながら見ていた。
そして、言い合いがおさまった頃ポツリと口を開く。
「結婚式はどうするんだ?」
「あー。どうしようか。紗彩、最初の時は?」
「え? あ、あの。……結婚式はしてないのよ」
私の言葉に、英治くんが驚いたように身を乗り出す。