契約恋愛~思い出に溺れて~
「ねぇ」
再び沈黙を破ったのは私。
聞いてはいけないことだと思うのに、口に出さなければ落ち着かなかった。
「ん?」
「もし、今の役職やめたくないって言ったら、英治くんは私と別れるの?」
「……」
英治くんは一瞬息を飲んだ。
沈黙が肯定のように感じて、聞かなければよかったと胸が痛くなる。
けれども、彼の口から出たのは予想とは違う言葉だった。
「いや、そういう訳じゃないよ。その時はまた考えよう。俺と紗彩とサユと、一番上手くいられる方法を」
「う、ん」
「もう寝よう」
「……うん」
彼の言葉は優しかったのに、私の気持ちは晴れなかった。
よく眠れないまま夜が明けて、カーテン越しに明るさを感じるようになった頃、考え過ぎた頭が痛みだした。