契約恋愛~思い出に溺れて~

アパートの階段を下まで降りたあたりで、紗優が追いかけてきた。


「ママ、サユもいく」

「紗優」

「サユも連れてって」

「そうね。じゃあ一緒に行こうか」


紗優は自然に私の手を握ると、まだ結んでいないボサボサの髪の毛を邪魔そうに空いてる手で撫でつけていた。

そして、ちょっと握る手に力が入ったかと思うと、おずおずと口を開く。


「ママ、怒ってる?」

「どうして?」


意外な言葉に立ち止まって聞くと、紗優は困ったように私を見上げる。


「だって、なんか朝から変だもん。
サユの言ったこと、おとうさんから聞いちゃった?
だから怒ってる?」

「え?」


何の話?
昨日英治くんが言ってたことは、サユを怒るような話じゃないのに。

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