契約恋愛~思い出に溺れて~
「無理すんな、紗彩」
彼はそう言って、私の前に背中を見せる。
「乗れる?」
「大丈夫、歩ける」
「歩けないから座りこんでんだろ?
それともお姫様抱っこの方がいいの?」
「な、違う。もう」
彼の背中に手を伸ばして、ぴったりと体を合わせる。
次の瞬間、ひざ裏に腕が回り込んでおんぶをされた。
「とにかく家に行こう」
「ね。やっぱり歩く」
「痛い時は素直に言いな」
そのまま、英治くんは走りだした。
徐々に荒くなる呼吸音が耳に入り込んでくる。
体に感じる振動が、頭痛と相まって気持ち悪い。
苦しい。
けど、力は抜けてきた。