契約恋愛~思い出に溺れて~
思わず英治くんと顔を見合わせる。
私はここではいつも、ユウの思い出に浸ってばかりいた。
浸り過ぎていて、溺れてたって言った方がいいかもしれない。
あまりにもぴったりな花言葉にもう笑うしかない。
「偶然ってすごいな」
「ホントね」
「たまにはここに来ような。紗彩にとって、ここは大事な場所だろ?」
「うん。ありがとう」
だけどもう、溺れる事はないだろう。
あなたがいる。
それを目印に、私はもう水面を見失う事はないはずだ。
カウンターの下から、英治くんの手を握って、目を閉じる。
耳に響く仲間の話声。
ピアノの音色。
そんなざわめきの波に揺られながら、
私は彼の肩に頭を寄せた。
【fin】