契約恋愛~思い出に溺れて~
「伝えてみればいいじゃない」
「伝えたら、綾乃には家族が居なくなってしまう。
母はまだ生きてるが、綾乃を支えられるほど強くない。
精神が少し弱ってるんだ。
俺はアイツの帰る場所で居なきゃいけないんだよ」
「……そう」
なんだか、彼の秘密の部分を見てしまった気がする。
その、どうにもならない感情をもてあましているのは苦しいだろう。
「やっぱり、する?」
「もういいよ。今日は調子悪いんだろ?」
「うん、でも。……大丈夫よ?」
彼が苦笑して、唇を寄せる。
その首に腕を巻き付けた。
同情もあったのだろうと思う。
似た者同士が慰め合ってるって言葉が、多分一番ぴったりはまるのだろう。
私は彼にユウの感触を求め、彼は私にアヤちゃんへの感情のはけ口を求める。
それで利害が一致するなら、何でもない事のような気もした。
罪悪感もマヒするものだなんて、この時まで知らなかった。