契約恋愛~思い出に溺れて~
達雄は私の肩を抱いて引き寄せると、
「俺の彼女の横山紗彩さん。
こっちは妹の綾乃、そしてその彼氏の里中司くんだ」
と紹介してくれる。
やけに冷静を装う口調が、達雄らしくなくて気になる。
綾乃ちゃんの恋人は、話を盛り上げようと色々な話題を振ってくるけれど、綾乃ちゃんはどんどんうつむいていくばかり。
「司、行こうよ」
ついには、彼のスーツの袖をひっぱり始める。
達雄とは視線を合わそうとしない。
「アヤ、今日は遅くなるのか?」
「う、うん。分かんない」
「今からメシ食べに行くんです。帰りはちゃんと送って行きますから」
「俺に気を使わなくてもいいよ。ゆっくり楽しんでおいで。
司くん、悪いがお願いします」
「はい。もちろん」
綾乃ちゃんは、まるで逃げ出すように彼の腕を引っ張って歩いて行く。
そして何度も私の方を見る。
その眼差しに、ものすごく違和感を感じた。