契約恋愛~思い出に溺れて~
「中途半端なこと言わないで。紗優の父親になる気もない癖に」
「あるって言ったら?」
「え?」
驚いて振り向くと達雄が真剣な眼差しでこちらを見ている。
「……綾乃が結婚するなら。俺ももう身を固めようかと思う」
「私のこと、好きでもない癖に?」
「好きだよ。綾乃に対するのとは違う感情だけど。多分家族にはなれる。紗彩だって、そうだろ?」
「それは……」
喉が詰まる。
達雄まで渚と同じようなことを言うとは思わなかった。
確かに、愛してはいないけど、気持ちも体も許せる相手ではある。
だけど。
やはりちらつくのは、陽に焼けたユウ。
紗優を抱きしめて、幸せそうに笑った、あの姿。
「……再婚なんてするつもりないわ」
「そうか。ならいい」
あっさりと、達雄は引き下がった。
これでいい。
私たちの関係は、このままでいいんだ。
『契約恋愛』のままで。