僕は生徒に恋をした
「一人で帰れるから」

無理に笑顔を作って背を向けた山田に俺は頷いた。

その瞬間、小さい肩がわずかに震えているのが分かり、俺は思わず彼女の手を掴んでいた。

山田は驚いて俺を振り返る。
俺も自分に驚いていた。

やめろ俺、この手を離せ。

彼女を引き止めて、これ以上何を言うつもりなんだ。

自分が自分で分からない。

俺は何とか自分の手を制御する。
ゆっくり彼女の手を離し、

「気を付けて帰れよ」

それだけやっと言うことができた。

******

「遅かったわね。
電話したんだけど…」

家に着くと佐藤先生に出迎えられた。

「気付かなかった。
―――ごめん」

俺は靴を脱ぎながら答える。

そして、帰り道ずっと考えていたことを口にした。

「やっぱり今夜、これを食べたら帰ってもらえないかな」
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