僕は生徒に恋をした
「じゃあ武内、頼んだ」

本当は頼みたくなんてなかった。

山田のことが好きな男と二人きりにさせるのは嫌なのに、こう言うことしかできない俺は何て臆病なんだろう。

俺が廊下を歩き出したところで、武内に呼び止められた。

「佐々ちゃん」

振り返ると彼も廊下に出て、俺を見つめながら後ろ手で保健室の扉を閉めた。

少し様子がおかしいような気がする。

「どうした?」

「―――俺、さっきの見たよ」

俺は彼の言葉に息を飲んだ。

「さっき佐々ちゃんが山田を抱きしめてるのを見たよ」

心臓の音が大きくなる。
うまく呼吸ができない。

下手すれば職を失うかもしれないというのに、俺の頭に浮かぶのは山田の心配ばかりだった。
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