僕は生徒に恋をした
「おいおい」

こんな時間に校内に生徒が残っているのは問題だ。

俺は慌てて駆け寄る。

「起きろー」

少しくせっ毛の栗色の髪が額にかかり、いまいち顔がよく見えない。

俺は頭をフル稼働させて、この生徒の名前を思い出そうとする。

隣りのクラスではあるが、数学を受け持っているので、確かに見覚えがある。

―――何て名前だったっけ。
えーと、ほら、確か…。

「―――山田」

山田雛。

頭の中で名前と顔が一致してホッとする。

山田は目立つ生徒じゃない。

俺が授業中にくだらないことを言っても、後方の席で穏やかに笑っているような生徒だ。

とは言え、生徒の名前がとっさに出てこないなんて教師失格に違いない。

内心で山田に謝りながら、俺は彼女の肩に手を置く。

「おい、もう20時だぞ?
何やってるんだ」

山田は俺に気付いて頭を上げ、しばし状況を確かめるために周りを見回した後、

「あーっ!」

と大きな声を上げた。
< 3 / 374 >

この作品をシェア

pagetop