僕は生徒に恋をした
「キスだってしてくれたもん…」

いつもなら、目を閉じれば先生の顔が浮かぶはずなのに、どうして今は出て来てくれないんだろう。

先生がどんな顔でキスしてくれたか思い出せないよ。

「そんなん、俺がしてやるよ」

武内君が強引に私の腕を掴む。

男の子の力に敵うはずなく、私の抵抗もむなしく壁に押さえ付けられる。

「佐々ちゃんなんか、もう忘れちゃえよ」

武内君の顔が近付く。

すごく真剣で、私の知ってる武内君じゃないみたいだった。

私は怖くて目を閉じる。

だけど、武内君はそれ以上何もしてこなかった。

恐る恐る目を開けると、彼は悔しそうにつぶやいた。

「俺だったら、山田を不安にさせないのに…」

武内君はごめん、とつぶやくと、掴んでいた私の腕を離した。
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