僕は生徒に恋をした
山田は呆然として、目前のノートを見つめる。

「全然分からなくて寝ちゃった…。
どうしよう、まだ途中なのに」

「何だそれ?」

俺は机の上に広げられた古典の教科書を指差した。

「私、担任に課題たくさん出されちゃって、終わったら見せに来いって言われてたんだけど…」

「見せに来いって…。
林原もう帰ったぞ」

林原なら、職員会議が終わって早々に帰宅したはずだ。

「嘘ー!
終わるまで帰るなって言ったのに…」

山田はがっくりと机に突っ伏した。

林原はいい加減なやつだから、山田に課題を出したことさえ忘れているに違いない。

現に、会議が終わった直後、見たいテレビがあるとかなんとかつぶやきながら職員室を出て行ったのを見掛けた。

「呆れたやつだな…。
もういいよ、山田。
俺が明日林原に言っておくから、今日はもう帰れ」

俺の言葉に山田は一瞬目を輝かせたかと思うと、すぐに困った顔に戻って首を振った。
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