僕は生徒に恋をした
「あ、ここにも付いてる」

深い意味はなく、唇に少しだけ付いた絵の具に手を伸ばした。

山田は目を閉じて俺の指が拭き終わるのを待つ。

そのとき、俺は中村の視線に気付き、慌てて手を離した。

「ありがと」

山田はニコッと笑った。

「あ、そういえば先生。
この間うちに来たとき、タオル忘れて行ったよ」

返しそびれていた、と山田は言う。

「教室にあるから取りに行ってくる」

山田が教室に戻ろうとしたので、俺は思わず彼女の手を掴んで引き止める。

制服に付いた絵の具の色は薄くなったものの、湿らせたハンカチで拭ったためにあちこち濡れていたから。
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