追憶〜逢いたい人へ〜
びっくりした様子の勇に、

『出てこない方がいいよ。また余計に勇だってバレちゃうよ…あっ!これお釣りね…』


周りをキョロキョロ気にしながら勇に渡した。


また優しい笑顔で受け取っ勇は、


『お釣り残してって良かった…。じゃあ、乗って!』

『えっ?なんで?』


『千代を逃がさないための作戦!早く乗って!』


恥ずかしくなって勇から目をそらした私はそのまま後ろのドアを開けた。


『違う!違う!こっちに乗って!』

勇は助手席を指差した。



私は慌てて、


『乗れないよ!…だってここは私の席じゃないもん。』


そう言って再び後ろに乗り込もうとしたら、勇は車から降りてしまった。


私の手をそっと握り、


『今だけ、あの頃に戻ってもらえないかな…?!』


真剣な目で私を見つめていた…。

それでも、躊躇した私は、
『…でも…さっきの…』

…女の人に悪いから…

って言おうとしたのに、勇は私の言葉を遮って、


『…ドライブしよう!』



…あっ…このセリフ……


あの頃、勇に言われたことがある…





急にあの頃の切ない感情が溢れてきた…



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