キスはおとなの現実の【完】
店内には先客が五名。
すでにぎゅう詰めだった。
先ほどのふとったサラリーマンのぶんだけ、わずかなスペースがあいている。

店のなかでは人と人とがすれ違えない。
先にいたお客さんたちがパズルのように移動して、引き戸のまえのスペースをわたしのためにあけてくれた。

わたしはそこに、なんとかかんとか身体をねじこむ。

せまい店内は、お酒のにおいと加齢臭がぷんぷんしたが、とりあえず左右に肩がぶつかることはないので、居心地は最悪よりもわずかにましだ。
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