キスはおとなの現実の【完】
肝心の市橋商事との取引がうまくいったかは、わからない。
初訪問では保留というこたえが返ってきただけだった。

うちであつかう光学マウスなんかのパソコン周辺機器を、市橋商事が買ってくれるかというのは五分五分というところ。

まだ途中経過だったし、感触を実感としてつかめるほどのスキルは今のわたしにはそなわっていない。

わたしはただ、笑顔をたやさず、頭をさげて、持ちこんだ資料をかばんからだす役割である。

交渉や仕事上の雑談なんかは、全部大上先輩が担当している。

仕事は盗んで覚えろというのが方針らしいが、高卒のうえ入社二年目のひよっこは、まだまだ先輩社員についていくのがせいいっぱいだ。
< 12 / 224 >

この作品をシェア

pagetop