キスはおとなの現実の【完】
カズトさんはわたしにたずねる。

「ちょっと、自分の話をしてもいいですか」

わたしはぐしゃぐしゃの顔でビール缶をにぎってうなずく。

「このまえのタツヤ。あいつはまだ大学生でこどもだけれど、もう二年もすれば学校を卒業して、あっさりおれを追い抜きます。なんといっても、おれはただの酒屋の店番で、やつは将来有望な医者ですから。やつがこどもだなんておれがいって笑っていられるのは、きっと今のうちだけですよ」

カズトさんはすこしだけさみしそうに笑う。
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