キスはおとなの現実の【完】
「シオリ。あなたはまだ二十歳なんだから、つらかったらむりしないで、うちに帰ってきなさい」

これも母のやさしさだろう。

だけど。

まだじゃない。

わたしはもう、二十歳なのだ。

「うん。ありがと。また連絡するよ」

そういってわたしは一方的に通話を切った。

これ以上母の声をきいていると心のなかの弱い部分が顔をだし、決意が揺らぐおそれがある。

母の声とわかれると、急に孤独と静寂が耳にうるさく響いてきた。

商店街のざわめきとどこかの店先から流れるビートルズのメロディを背後にきいて、わたしはまっすぐアパートに帰った。
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