キスはおとなの現実の【完】
困っていると、横に立っていた業者の男の人が、わたしの顔をちらと見てから声を張る。

「タツヤ。おつかれさん。おれはトラックおきにいかなきゃいけないから、もう帰るよ。みんな、じゃまして悪かった。じゃまものは退散するので、これから長い夜をたのしんでくれ」

すこし離れた場所にいたムードメーカーは、酒屋さんのあんちゃんにおつかれさまと返事をする。

ほかの酔っぱらいたちも、しらじらしいわかれの言葉を口にしている。

それが合図になって、なんとなくわたしも帰っていい雰囲気になった。

「今日はたのしかったです。ありがとうございました」

きたときとおなじように頭をさげて、心にもないあいさつをする。

業者の男の人は、うしろをふりむくこともなく居酒屋のまえに停めてある白のヴァンにのりこんだ。

業務用の配達車。
ドアのところにエプロンとおなじロゴがはいっていた。
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