星夢物語
緑木

とある冬の日の大晦日、雪はさほど振っている様子もなく、ただ寒さだけが大地を駆け抜けていくそんな年の暮れ。
私は田舎のおばあちゃんの家に、ちょっとした事情でもう1週間ぐらいか、お世話になっている。
ここには草花がごくわずかではあるが生き残っていて、空気は都会と比べると申し分ない美味しさである。


「杏恋さん、ご飯ですよぉ~」


杏恋(あれん)という名前は、両親が”乙女のように可愛らしく、素敵な恋にめぐり合えますように”という想いでつけてくれたそうで、
けれどそんな色恋はこの17年、私が悪いというわけではないのだろうけれど...まったくない。
日本のみならず、世界の人口は全盛期といわれた時代の約3分の1まで減少。
いいなと思った男の子には常に先客がいて、より良い子孫の争奪戦が日常茶飯事で、それに張り合うほどのエネルギーは私には残念ながらない。


この地球全体の森林と呼ばれる物体はその8割が姿を消し、代わりにコンクリートや鉄の塊が軒を連ねる世界になっている。
ただ今いるこの田舎は”自然特別保護地区”と言われる貴重な”草”のあるエリアで、どんな企業であろうと建てたり作ったりができない、印籠物な土地なのだ。
そこにずっと昔から家をかまえる母方の実家があり、自室でなんだか変わった形の椅子に腰をかけてボーっとしていた。


おばあちゃんの声と、1階から昇ってくる美味しそうな香りに誘われて思わず「はーい!」と返事を返し、急ぎ足で階段を駆け下りた。

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