白日夢
「僕なんかがこなせる脚本は詰まらん産業映画の仕事ばかりだよ。君みたいな幻想的で前衛的なオリジナルの作品を書けないからね。」和久井は一息つくと思い出したように付け加えた。「そうそう、今日は君に面白い話を持ってきたんだ。」
「どんな。」
 陣が素っ気無い返事をすると、和久井は田口探偵事務所の方を一瞥して、言った。
「関心の無い振りをするなよ、分かってるんだぞ君が本当は聞きたくてしょうがない事をさ。まっ、ここでは何だから中で冷たいものでも飲みながら。」
 陣は大きく溜め息をつくと、茹だるような暑さも手伝って、この思い込みの激しい商売敵を田口探偵事務所の中に招き入れる事にした。
 陣は図書館から借りてきた書籍を居間の棚の上に置くと、冷蔵庫からビールとコーラの缶を一本ずつ取り出して、応接間の接客用のテーブルに置いた。
「やあ、ありがとう。僕は下戸だからこちらにしておくよ。」
 和久井はコーラの赤い缶を手にすると、蓋を開け、恐ろしい勢いでそれを飲み干した。
「プハぁ、生き返った。やはりコーラは赤いのに限るね。」
 陣は和久井を見据えながら、ビールの蓋を開けた。
「それで、面白い話って何だ。」
 陣が訊ねると、和久井は待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
「ほおら、やっぱり聞きたかったんだ。はじめから素直にそう言いなよ。」しかし、直ぐに本題に入るのかと思っていたら、和久井は急に指を鳴らすと「ああ、そう言えばさっき駅前のしょぼい名画座で『ドゴールが選ぶ、邦画名作五本』とか言う、ふざけた企画をやってたんだよ。全くこれだから田舎の映画館は困る、何が“ドゴールが選ぶ”だ。一体全体何時選んだって言うんだ?まさか本人が選んだと言い張る気じゃあるまい。」といった。
「だいたい、ドゴールは『白日夢』が駄作だって言い張っているんだよ。それなのにいきなり『白日夢』かよ。全く。ハッタリかますんだったら、ちゃんと調べろって、言うんだよ。」
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