白日夢
 ウエディングドレスの女が蝋燭の灯を吹き消すと、一瞬の暗闇の後、当初の目映いほどの明かりが眼球を強襲した。
愕然とする。ウエディングドレスの女は左手で燕尾服の男の襟を摑み、どこから持ってきたのか、仰け反っている相手の左胸に刃渡り二十センチ程度のおおきな包丁を右手で突き立てていた。燕尾服の男は絶命していただろうが、その顔はまだ笑っていた。まるでこのことが初めから解っていたかのように。
ウエディングドレスの女が左手を離す。燕尾服の男はそのまま左胸に包丁をたてつけたまま仰向けに倒れる。それを見届けるとウエディングドレスの女はゆっくりとこちらを振り返った。
恐怖、を感じた。今にもウエディングドレスを着た悪魔がこちらに走ってきて自分の首をそのか細い長い腕で、締め付けるのでは無いだろうかという不安の所為で。
けれども、ウエディングドレスの女はこちらを一瞥すると、まるで興味が無いかのようにこちらを無視して背を向けた。それから、大写しのモノクロームの写真を額ごと壁から無理矢理引っぺがしてそれを両腕の中に収めた。ウエディングドレスの女は写真に向かって何かを呟き始めた。
すると急に周りの機械達が稼動を再開し、辺りは金属どうしの交わる轟音で包まれた。先ほどとは桁の違う音量に思わず耳を両手で塞いだ。
あまりの騒音。機械の稼動を止める為に、奥へ行く。幸いウエディングドレスの女はこちらに興味が無いようだ。手当たり次第に機械を触る。けれども一切稼動を停止する素振りを見せない。
苛立った。拳を堅く握り、手当たり次第に触った機械達を殴りつける。手は間も無く朱色に染まってゆく。それでも止める事は出来無い。この音を聞き続ける方がよほど辛い。
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