白日夢
「毎度。そう言えば陣ちゃんは?最近来ないけど・・・。」
「いや、特に進歩は無いよ。いつもの調子さ。」と陣は言って肩をすくめた。
「ふうん。トモさんも少しは何とか言ってあげたら。」
 理沙は少し怒ったように云う。
「何とかって、何をだよ」
「もっと仕事をしろとかさ、一層のこと脚本家なんかやめちゃえばとか。あれじゃたちの悪いニートと変わらないよ」
「言っても無駄だよ。理沙ちゃんが言えばいいだろうに」
「言ってますよ。でも、全然ダメ。人を子供呼ばわりするんだよ。どっちが子供なんだか」
理沙はそういうと大げさにため息をついた。
「まあまあ、好きにやらせとけばいいよ」
「なんか突き放してるんだね。ダメ人間を突き放したらそのままダメダメ人生だよ」
「なんだか、理沙ちゃん、あいつの母親みたいだね」と樋口は笑った。
「母親?私が陣ちゃんのお母さんだったら、息子のだめさ加減に呆れ果てて蒸発するね」
「大げさだな」と樋口は笑った。
「そういえば、陣ちゃんが入り浸ってる名画座さ、今度閉まるんだって」
 樋口は少し驚いた。しかし、よく考えれば、名画座の時代はVHSの興隆でとっくに終わってるし、今ではVHSに取って代わったDVDで気軽に古い映画が見れる時代なのだ。時代遅れの産物――。
「何でもね、入院するんだってさ。」
樋口が時代の進歩に思いを馳せている最中、理沙の言葉が耳に入ってきた。
「入院?ってだれが?」
「もー聞いてなかったの?だから、あの映画館の館長さん」
「どうして?」
「そこまでは知らないわよ。陣ちゃんに聞いてみれば。いっつももあそこにいるんだから知ってるでしょ」
それもそうだと樋口は思い理沙に礼を言って、煙草のカートンとおまけのライターをもらって、店の外をみた。もうすぐバスが停留所付近に着きそうである。樋口はあわてて走り出し、店を飛び出した。
「トモさん、お釣りは?」
 理沙の善意の叫びも虚しく、樋口は理沙の視界の外へ消え去った。
「一体何事?」
 理沙は肩を竦めて、呟いた。
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