白日夢


樋口が無限坂を上がっていると騒々しいエンジン音が辺りにこだました。樋口が上を見上げると、真っ赤なスポーツカーが騒音を立てて下ってきた。そして、樋口の前に差し掛かると、すごい音を出して、急停車した。
「樋口さーん。和久井です。」
 窓から顔を出したのは、脚本家の和久井だった。
「何してんの?こんなところで。」
「いや、村下君に会いに着たんです。あ、急ぎますんで詳しい話は彼に聞いてください。」
 和久井はそう言いのこすと、さっさと行ってしまった。
 帰宅した樋口は陣に和久井の事を尋ねた。陣は先ほどあった事を脚本家らしくテンポよくまとめて話した。
「そう言う訳で、ちゃんとした格好をしなくちゃならないんだ。」
 陣がそう言うと、樋口はだからどうした、という顔をした。
「だから・・・俺は金がないんだよ。」
「それで?」
「それで———、お金を貸していただきたいなぁ、なんてね。」
 陣がそう言うと樋口は、返せよと呟いて金庫から封筒を持ってきた。
「OH、GOD!感謝します。」
「神じゃなく、俺にな。」
樋口は封筒を陣に渡してから、言った。
「おい、お前のセンスは悪いから、理沙ちゃんと一緒に行って来い。頼むから金をどぶに捨てるような真似だけはしてくれるな。」
 その言葉に陣は敬礼のポーズをとって答えた。
< 24 / 28 >

この作品をシェア

pagetop