白日夢
 陣は和久井の発言に驚いた。
「おい、今何て言った?」
「え、アレが溝島邸だ、って言ったけど。」
「溝島邸って、まさか溝島明の家?」
 陣がそう言うと、和久井は呆れたように答えた。
「まさか、何処に行くのか知らなかったのかい?そう言えば言ってなかったかな。そうだよ、アレがかの有名な溝島明大監督の自宅。和洋折衷の古い建物で、外見はイギリス風だが中身はイスラムあたりのモチーフで取り入れられているんだ。まあ、監督の趣味じゃないらしいけどね」
 和久井がそう説明すると、陣はすかさず返事をした。
「溝島監督は隠棲していて人と会うのが厭なんじゃないのかい」
「そうだね。でも今回は話が違うだろう。何しろドゴールが来るんだぜ。椛島さんなんか、毎日溝島監督に電話して、俺も逢わせてくれって言っていたそうだ」
 椛島というのは有名な映画プロデューサーである。陣の渾身の脚本を没にした人物で、陣にしてみれば余りあいたい人ではない。
「君も電話したのかい?」
「いいや、そんなこと、恐れ多いよ。椛島さんがしつこいんで、監督が、しょうがないからOKしたんだが、それなら私もって、麻生さんも迫ったんだよ。結局、小さなパーティにすることになったんだよ。で、麻生さんと椛島さんに気に入られている僕にもお声がかかったというわけ」
 麻生というのは、女優で一時代を築いたものの最近は主演作品も減り、落ち目だといわれているが、プロデューサーなどに強い影響力を持つ女優として知られている。
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