白日夢
突然、思いついた。そうだ、女を殺せばいい。
もう一度思う。ウエディングドレスの女を殺せばいい。
一心不乱に写真に話し掛けるウエディングドレスの女の艶やかなうなじを眺め、音を立てずに近づいて行く。それからウエディングドレスの女の首に自分の腕を巻きつける。ゆっくりと、じわじわと、それでいて力強く。意に反して女は抵抗しない。
ウエディングドレスの女のうなじを見ていたその目を、女の顔が映った鏡の様な歯車に移す。女は笑っていた。背筋に冷たいものが走った。今まで感じた事の無い恐怖を今身体一杯に感じている、その新たな種類の笑いに。
やがてウエディングドレスの女はその命を絶たされた。そして死の直前にまるで何かを伝えるかのように持っていた写真を額ごと壁にたたきつけた。額のガラス部分は砕け散り、機械の奏でる無機質な交響曲はピリオドを打った。
立ち尽くした。他にする事が無い。
廊下から数人が走ってくる音が聞こえた。
振り返ると三人の死神が黒衣をまとって形相を浮かべていた。きっと人殺しの女を捕まえて地獄へ送るつもりなのだろう。
 不意に死神たちの後ろから一人の天使だか神だか自分とは正反対らしい男が姿を現した。そして前へ一歩出て、訊ねた。
「天国へは行けそうですか?」
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