白日夢
 その日、陣は生まれて始めて無断で仕事を休んだ。目的もなくただ冬の街をさ迷っていると、目の前に大きな川が流れている、だだっ広い公園がその全貌を現した。今までこんなところに公園があることなど陣は知らなかった。ただ日々を仕事のためだけに消費していた。近くに公園があり無邪気そうに子供たちが秘密基地ごっこをしている事にも、大きな川が流れていて釣りを楽しむ老人がいる事にも全く気付かず自分は一体何を見ていたのだろうか、陣は己の人生にふと疑問を感じた。

自分は何故、今の仕事についたのだろうか。

何のために、必死に勉強してきたのだろうか。

それで結局、誰かを救えたのか。救ったさ、でも救えなかった人たちもいる。

彼等は一体何のために生きてきたのか。俺のために、俺の技術を磨く材料としてか・・・否、彼等そんなことのためにうまれてきたわけでは無い。彼等は何か他のもっと価値のあることのために生まれてきたのだ。若人たちに学ぶ事の喜びを教えるために、救いの無い世界を変えるために、市民の平和を守る為に、人々に希望を与える歌を歌うために。
 目の前に死んでいった彼等の顔が次々と現われては消えていく。陣は、下腹部の辺りを酷く鋭利なもので弄ばれているかのような不快感が覆うのを感じた。
 では、俺は何のために・・・。
 気がついたら、陣は薄汚れた橋の上にいた。

――ああ、死ぬんだ、俺は。
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