花菖蒲
花菖蒲
花菖蒲
梅雨の到来を知らせているのか、空が雲に覆われている。
良一郎は高ぶる気持ちを押さえられず、隣で寝ている妻に気づかれないように、寝床を出ると縁側に座り込んだ。
小さな庭に並べられた水鉢から、育った菖蒲その一つから、黄色の花が咲き出してる。
他の株も花芽を点けている。全開も間近いようだ。
水鉢には睡蓮と言うのが普通だが、妻が身籠もった時に男子を願って植えた。
だが生まれた子供は女の子だった、美英と名ずけた。
次に生まれた子供も叶わず女で理英と名ずけた。だからと言って落胆した訳では無い。
両親は跡継ぎが出来ないと少し嘆いたが、気の留めずに過ぎ、今はその両親も他界していた。時折孫の抱けるまでは生き抜くと言ってはいたが、他界してしまいその事が心残りでもある。
二人の娘は幸い、生死をさまようような、
大病もせず、大怪我もする事無く育った。
その長女の美英の結婚が秋と決まり、昨日
仲人の副市長、加賀太郎から結納を受けた。
結納の品々が、床の間に飾られている。隣に
両親の写真を添えた。
買い求める時に聞いた通り、菖蒲は丈夫な植物で、手入れも大した事もせずに育つ、その分増えるのが悩みと言える。広くない庭では鉢を増やす事も出来ず、部下に声をかけて
引き取って貰ってる。
妻は迷惑と小言を言うが、捨てるのは忍びない、貧乏性なのだろう。
ぼんやりと菖蒲を眺めていると、後ろに人
の気配を感じた。
「良く眠れなかったようですね、何度も寝返り打ってましたよ」