花菖蒲
 「起こしてしまったか」

 「いいえ、朝食の支度に取り掛かる時間ですから」
 妻は声をかけると台所に向かい歩いて行った。
 その内娘も起きだして、騒がしくなる。

 特に理英が起き出すと、我が家の朝が動きを早める。

 「お父さん、おはよう。

 どうしたの、ぼんやりして、さては姉さんの結婚が現実になって感傷的になってるな」
 理英に肩を叩かれて、立ち上がる。

 「着替えた、ご飯だと、お母さんが呼んでるよ」

 理英の歩く足音に、追いたてらえるように食堂に入ると、美英と妻が朝食を揃えてるのに、理英は座って出てくるのを待っている。

 いつもの光景だ、妻も最近は慣れたせいか諦めたか、理英に支度を手伝えとは言わなくなっていた。 

並べた総菜、盛られたご飯を食べると化粧に洗面所に消えた。

 美英が二人分の器を流しに、それでもたまには、器を流しに運ぶ時もある。

 そうした時、妻が
 「あら、珍しい雨になるわ」
と言うから、尚更しなくなったのかもしれない。

 妻は私に貴方が理英を幼い頃から、ボールを持って、海岸に出て、一緒に走ったりした性であのように育ったと言うが、娘二人連れて出ていたから、別段変えていた訳では無いと思うが、妻の返答は変わらない。

 私にしてみれば、子供の養育は妻の仕事と思っているから、妻が甘いのではと思うが、言い返すと、別の攻撃を受けそうで黙る。

 妻には少々偏屈な両親と同居、それなりに苦労させたと反省してる面もあるから、逆らわないようにしてるし、むしろ良く仕えてくれたと感謝もしてる。


(続く)
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