花菖蒲
 私が食事をしてると妻は二人の娘に聞く。

 「今日は早く帰宅出来るの」
「私、進太郎のお家に寄ってくるので遅く
なります」

 「僕は囲碁の検討会があり、大変遅いです」 洗面所から理英が答える。
 「理英、言葉だけは直しなさい」

「今日も二人だけか、佳枝、私は今日遅くなる用もなさそうだから、外で食べようか」

「贅沢は出来ませんよ、娘二人抱えて、家も建て替えしたいと貴方言ってたでしょう」

「お母さん外で食事しなさいよ、私出すから。こう見えても私結構稼いでるのよ」

 洗面所から声が聞こえたら、食堂に来て自分の財布を開ける、足らないのか
 「お姉ちゃん財布拝借」

 勝手に美英の財布を開けると、自分の出した分と合わせて、二万円を妻の前に出し
「はい、軍資金」

 妻の咎める間も無い。
 「理英、貴女先生の処では、粗相の無いしてくれてるのでしょうね」
 「はい、お母様、女性のお弟子さんは少ないから、そつなく振る舞っておりますので、
ご安心くださいませ」

「まったく、この娘は」
 「お母様、定石を熟知するのは勿論、いかなる変化にも変幻自在に対応するのがプロ碁士の基本でございます。ご安心くださいませ」
「理英、それなりの収入得てると言うが、お父さんの信用金庫の君の口座、あまり多くないぞ」

 「信用金庫、都会で使うのに不便だから、他の銀行を利用してます。
でも、お父さん見たの、たとえ娘の口座でも知るのは、行則違反ではありませんか」

「うるさい」

「と言う事はお姉ちゃんの口座も覗いてるんだ」

「美英のは見てない。お前と違うからな」
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