花菖蒲
「子育てに差別は禁物で無いでしょうか、抗議いたします」
「もう良い」

 「減らず口叩いてると遅れますよ」

 二人の娘が出て行く、良平は出勤の支度に取りかかる。

 結婚を秋に控えた姉娘、美英は二十八歳、地元の高村建築事務所に勤務している。一応仕事柄、二級建築士の免許は持っているが、職業婦人に興味が無いようで、そのままにしている。

 下の娘は二十五歳、幼い頃囲碁の手ほどきをしたら、のめり込み、高じて本川由悠市門下プロ二年目、二段の碁士である。

良平は出がけに妻に
 「今日は娘の好意に甘えよう。海岸の高ノ井ホテルのロビーで六時半でどうかな」
「はい」

「予定が変わったら連絡する」

 良平が出て行く、静かになった家で、佳枝は後片付けを済ますと、紅茶を入れて座った。

両親が健在の頃は、見られてる気がして、仕事を探す、整理すると落ち着いて座る事も少なかったなと振り返る。

 両親との同居、娘二人の養育と家事も多かったが、娘も育ち、両親も亡くなり仕事も少ない。

 義母は体面を気遣いする方で、娘が部屋を散らかしたり、汚したりするのを嫌っていたので、常に部屋の整理には気配りしていたが今はその必要も無くなった。

以前に比べて、怠惰になったなと思う、理英の買った雑誌が、ページめくれて、テーブルの置かれている。

 こんな事ではいけないと、自分を叱咤、紅茶を飲み干すと、掃除にかかった。
 掃除をしていると電話が鳴った。

 「はい、時頭です」
「佳枝、美英ちゃんの結納どうだった」
母からの電話であった。

(続く)
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