花菖蒲
 「お母さん、お陰様で。その報告もあって伺いたいけど、都合どう」

「私達は何時でも暇よ。毎日でも来て貰いたい程」

「じゃ、後で行来ます」

 「お父さんも楽しみだわ」
 「じゃあ、後で」

 気楽に出かける約束が出来る、両親が亡くなったせいもあるが、携帯電話の普及も大きい。

何処にいても連絡の取り合いが出来るので、留守が容易になったのだ。

 佳枝は駅前で、お土産に葛きりと赤飯を買うと、電車で実家の茅ヶ崎に向かう。

 佳枝の両親は気ままにに過ごしたいと、二人暮らし、佳枝の兄は東京で別に暮らしていた。

「こんにちわ」

 母のたえが、待ちかねていたように、玄関に
 「いらっしゃい」

 「先日は過分なご祝儀をありがとうございました。
 お陰様で無事に済ませられました。ありがとうございました」

 「挨拶は良いから、お父さんがお待ちかねですよ」

 「こんにちわ、お父さん」
 佳枝は改めて挨拶した。

 「おお、来たか。」

 佳枝はタッパーに入れた、総菜、お土産の葛きり、赤飯をテーブルに置いて

「梅雨の季節ね、来る道すがら、紫陽花がさいてたわ」

「そうかい、雨にならないと良いね」

母は曇り空を見上げて言った。
「良平君、仕事の方は順調か」

「ええ」
「それは何よりだ」
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