花菖蒲
 「来ると言っても、何も用意して無い、おそばでも茹でましょうか」

 「私、お赤飯とお総菜持って来たわ、お父さん、お昼それで良いでしょう」

 「ああ、結構だよ」

「そう、そう、この前不意に理英が来たよすっかり娘らしくなって、驚いたわ」

 「そうですか、ちっともそんな事言ってなかったけど」

 「何でも、囲碁の講師が近くであったとか言ってたよ」

 「あの娘は、礼儀をわきまえていないでしょう、だから出る度に心配するの」

「そんな事無いよ。挨拶もちゃんとしてたし、心配無いよ。良い娘だよ」

 「あ、お母さんこれ、結納の時の写真、久しぶり、家族全員で写真撮るなんて」

両親は写真を眺めながら

 「良く撮れてる、美英が結婚する歳になったか、あっと言う間だね。幼い頃、前の浜で走り回っていたのに、夢のようだよ」

 「そんな事もありましたね、あの娘達は平気で砂を付けたまま上がるから、畳を砂だらけにして。昇一兄さん時々顔だしてるの」

 「仕事、忙しいようだよ。滅多に顔見せない。正月に来たきり、その時翔太が結婚するかも知れないと言ってたけど、どうなったかね、その後何も言ってこない」

 「その話聞いたけど、最近の若い人は晩婚だから、五十歳で幼い子供がいるのも珍しく無いから」

「お父さん、美英の結婚が決まって、生きてる内に、曾孫を抱けると楽しみにしてる」

 「どうでしょう、老舗でしょう先方は、早く跡取りを欲しいようですが」

「早く作るように、そうと言っておくれ」 「お父さんそれを励みに長生きしてね」

「お父さん、最近耳も少し遠いし、物忘れも激しくなって、歳だよ」
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